
2025年1月17日(金)「べっぷわくわ~くWorkationウィークイベント」の一環として、デジタルノマドをテーマにしたトークセッション「デジタルノマド✕地域の可能性と未来」が開催されました。会場の「TACO NARGO(タコ・ナーゴ)」には20名以上が参加し、満員御礼。主催は一般社団法人別府市産業連携・協働プラットフォームB-biz LINK(以下、B-biz LINK)です。日本・九州におけるデジタルノマドの最前線をお届けします。
デジタルノマドに関する取り組み
今回の登壇者は、日本や九州でデジタルノマドに関する事業を実践中の4名。日本におけるデジタルノマドの実情や政策、そして自身の取り組みをご紹介いただきました。
日本でもすでに浸透しつつあるデジタルノマド【入江 真太郎】

京都を拠点に全国に5つの支店を持つ「日本ワーケーション協会」の理事をしています。九州には長崎に拠点があり、全国のいろんなところと連携しながら活動中です。日本最大級の独自のワーケーションネットワークを構築しながら、働き方やライフスタイル、地域共存や国際交流などを通してさまざに利用されていくことがワーケーションだと考え、その社会実現を目指しています。
「ワーケーションとデジタルノマドはどう違うのか?」という質問を受けるのですが、ワーケーションは行動のこと、デジタルノマドは世界中のPCなどで仕事をする人のことを指します。海外の人だけでなく日本人も含めた人を意味しているんですね。
京都にはコワーキングスペースがたくさんありますが、すでに海外の人の割合が多い場所も出てきています。実はもう、デジタルノマドは多く日本に滞在しているし、自分がノマドと認識していない人も多いようです。日本では2024年4月から「デジタルノマドビザ」がスタートしました。
弊社では日本から海外へ行く取り組みが多く、去年の9月には韓国の釜山でデジタルノマドのイベントを韓国の企業さんと一緒に開催しています。韓国・ソウルではデジタルノマドの受け入れを通して、実際に現地でスタートアップを申請した人、起業する人もいました。調査によると、韓国に関心のあるデジタルノマドの約8割が日本にも興味があるとの結果がでているんです。直行便も多いので、ここから日本にデジタルノマドを呼び込めないかと考えています。
これからのウェルビーイング✕デジタルノマドを別府で【松崎 真理】

今、入江さんの話を聞いて……私自身、ノマドっぽい働き方をしているかもって思いました。去年は国内外合わせて25か所に出向いたので。最近「BelongTo」を立ち上げ、海外起業家や投資家、デジタルノマドを対象に滞在型プログラムを企画・運営しています。10日間の別府滞在型プログラムは、海外の起業家や投資家、海外のリモートワーカーなどを対象に実施しました。
普段は海外のスタートアップを日本に誘致するための広報やパートナーシップ業務などを行っています。自治体と連携し、スタートアップビザ制度のプロモーションを行ったり、海外で日本のスタートアップエコシステムをPRしたりする機会が多いです。こうした仕事を通じて、世界各国訪れるたびに日本の魅力を再発見するようになりました。その経験が、「BelongTo」のコンセプトにつながっています。
BelongToのコンセプトは「人と地域がゆるやかにつながる、ちょっと長めのふらっと滞在型プログラム」です。一泊や二泊の弾丸旅行ではなく、もう少し長く滞在することで、その地域の人と自然に関係を築いてほしいと考えています。その土地ならではの日常に触れ、「ただいま」「おかえりなさい」と言い合えるような関係が生まれてほしいですね。
また、最近はサーキュラーエコノミーやサステナビリティといったテーマにも関心がありますが、持続可能な社会のヒントはすでに身近な暮らしの中にあるのではないかと思うようになりました。きっと別府にも答えがあるのでは?そんな想いから、「Back to basic(本質に戻る)」を大切にしながら、プログラムを設計しました。
別府での滞在プログラムでは、地元の資源である温泉やそこから根付いた文化を活かした体験を多く取り入れました。コワーキングスペース「aside」の前にあるローカル温泉すじ湯にはいったり、地熱を利用したバナナファームを訪れて持続可能なビジネスを学んだり。地域の茶道の先生や書家の先生とも相談し、ウェルビーイングをテーマとしたワークショップを設計したりしました。
こうしたプログラムを通じて、訪れた人が地域と緩やかにつながり、「また戻ってきたい」と思えるような関係を築いていけたらと思っています。
福岡拠点で九州に滞在するデジタルノマドの誘客【横山 裕一】

福岡市での取り組みを紹介させてもらうと、福岡市では、コロナ禍による国内宿泊需要の落ち込みを受け、令和3年から国内ワーケーションの推進を始めました。令和5年からは、取組を拡大させる形で全国に先駆けてデジタルノマドの誘客をスタートしています。
福岡はアジアでは認知されているものの、欧米ではあまり知られていません。そこで福岡を知ってもらうシンボリックなイベントを開催しようということで、「COLIVE FUKUOKA」を始めました。デジタルノマド誘致を目的とした長期滞在型のプログラムで、様々なアクティビティや参加者同士の交流、地域事業者とのビジネスマッチング等、複数の要素で構成されています。プログラムのメインイベントとして、世界中のノマドのキーパーソンや海外政府、ゲスト等を招いてALL ENGLISHでの国際カンファレンスを開催し、ゲストには片付けコンサルタントとして世界的に有名なこんまりさんにも登壇いただきました。
また、福岡から船で10分の能古島では、ウェルネス、音楽、アートワーク体験ができる「シナプスフェスティバル」を開催し、約300名が参加したほか、別府や長崎、下関など、福岡を拠点にしたショートトリップの企画も実施しました。地元の企業と繋がってほしいとの思いから開催したビジネスマッチング交流会では、特に海外への商品展開を検討している企業や日本独自のコンテンツを扱う企業などが、デジタルノマドの広い知見やネットワーク、ビジネス感覚等を通じ、販路開拓に繋がる可能性を感じた有意義な機会となりました。
2023年は参加者が49名、海外から40名だったのが、今年は参加者数436名、海外からは226名に増えました。海外からの参加者の増加はもちろん嬉しいのですが、海外から人を呼ぶことによって国内のおもしろい人も集まってくることがわかりました。福岡はクリエイティブなまちを目指しており、その趣旨に合ったイベントになってきていると感じています。
年間を通じて来てもらうための滞在支援コーディネーターや、デジタルノマド向けの英語対応ができるサービス開発支援などの取り組みも始めているほか、九州運輸局の取り組みである「九州アイランドでやるべき100のこと」とも連携。福岡を拠点に、九州をフィールドとして長く滞在してもらえるよう、取り組んでいきたいと思っています。
国内外のデジタルノマドを増やし関係人口をつくる【新玉 祐史】

宮崎県日向市は人口6万人弱で、海を中心に発展してきました。古くからサーフィンの聖地としても有名です。令和2年から国内向けの企業ワーケーションを推進しています。4年間で110社、約1600名がワーケーションに参加するため、日向市に訪れました。その実績から観光庁「ワーケーション推進事業」モデル実証地域にも選定いただき、地域にもワーケーションが浸透してきたと思います。
ただ、行政ばかりがやっていてもダメだという思いがあり「地元の人たちと何ができるか?」を当初から大きなテーマと考えてきました。現在は30事業者ほどの民間企業が参加し、日向市ワーケーション推進会議が主体となってワーケーション事業を運営しています。私たちは熱い人間が多いコミュニティで、通称・チーム日向なんて呼ばれています。
去年は2回、デジタルノマドのトライアルツアーを行いました。1回目はサーフィンとデジタルノマドをかけ合わせた「サーファーデジタルノマド」をターゲットとして、別府市などとも連携しツアーを開催。2回目は韓国に滞在するデジタルノマドをターゲットにモニターツアーを実施しています。帰国後すぐ韓国に再訪したり、韓国の行政関係の視察団が来訪するなど、当初予定していなかった成果がありました。
モニターツアーの実施で感じた1番の成果は、シティプロモーションの側面が強いということ。情報発信されることで、海外との連携が増え、韓国、台湾の自治体との交流が進みました。台湾の記念式典に、日本から唯一招待いただくなどがあったんです。
もちろん課題もたくさんあります。ビジネスインバウンドについて、ローカルでスタートアップとの連携が難しいですね。ローカルコミュニティとどう連携させるかが、今後の肝になると思います。ワーケーションを更にパワーアップさせ、世界中のデジタルノマド含む人が日向市に訪れることで、新たな関係人口をつくり、拡大していきたいです。
デジタルノマドと地域の可能性

第二部は、今回のインベントテーマにもなっている「デジタルノマドと地域の可能性について」。それぞれの活動の中で感じた可能性を語っていただきました。
新玉さん:地域の話は先程ふれたように、日本国内すべてが平等ではないと思うんです。だからこそ、地域に応じた関わりが必要ですね。観光やビジネスという側面、自治体や地域の人がどう自分事として捉えるかの意識もあると思います。可能性は無限大ですが、アプローチはそれぞれですよね。
横山さん:福岡はアジアとの近さや空港からのアクセスの良さ等の地理的優位性があり、海外から来てもらいやすい環境だと思います。ビジネスをし、また日常生活を送る場として、拠点とするには打ってつけの都市だと思いますが、観光の側面では福岡だけで全てが満たされるとは考えていません。実際、福岡を訪れたノマド達が何を楽しんでいたかというと、カラオケや居酒屋など、福岡でなくてもできることが多いんです。もちろん福岡には豊かな食や、都市ならではの文化観光等、多彩な観光の魅力がありますが、何より福岡の周りには、観光の宝庫である九州の各都市があります。日向でサーフィンを楽しんだり、別府で温泉を満喫したりと、広域でノマドの受入れを行っていくことが有効だと思います。福岡市民が休みの日に観光に行ってもらうような感覚で九州の各都市を訪れてくれたらと思っています。直行便の多いアジア圏と異なり、欧米層は九州に訪れる割合が低く、東京インでは、西日本に来てもらうことは難しいですが、ノマドであればアジアの都市から福岡に入り、九州を回るようなルートも期待できます。
松崎さん:今回、滞在プログラムを実施してみて、気付きがたくさんありました。なかでも学びになったのは、ターゲットをどう考えるか?が重要だということです。地域の持つポテンシャルや強みを知った上で「デジタルノマド✕〇〇」が大切だなと感じます。最終的には人とつながる、コミュニティと繋がることが、デジタルノマドの方々にとって価値になりますよね。ターゲットとコミュニティのニーズを意識すると、もっと可能性が広がりそうです。
入江さん:ターゲットって、定めづらいですよね。例えば島根の出雲には、東欧ヨーロッパのエンジニアによる、結構大きなコミュニティがあるんです。そこと他のエンジニアの交流ができると、新たな可能性が生まれます。実はこうした日本での外国人と地元が絡み合ったコミュニティは、私たちが知らないだけでいっぱいあるんですよ。下田では関係人口を増やすため、高校生とか小中学校の人と交流する取り組みも行っています。地域の人からすれば、地元にいたら会えない人と出会う機会になる、そういった可能性としてあるのではと思います。
デジタルノマドが地域に与えるものとは?

新玉さん:日常で外国人にふれる機会がまったくない場所というのは、以前より少なくなっていると思います。それでも、今回のツアーでデジタルノマドの方と触れ合うことで、地域がグローバルに広がっていくことを感じました。デジタルノマドの存在によって、今までと違う属性がフォーカスされるんです。例えば英語ができる人材は、今まで探していなかったけど、知らないだけで結構いるとか。ツアーに関わった人が自分で韓国に行くなど、動きが活発化しました。インバウンド・アウトバウンド両面で、いろんな可能性を感じています。
横山さん:福岡市に滞在したデジタルノマドの1ヶ月の費用は約50万円で。富裕層という程ではないにしても、一般の訪日客に比べ高い消費額になっています。滞在を通じて福岡のことが好きになり、ゆくゆくはここでスタートアップしようと思ってくれるようなノマドが増えると嬉しいですね。そこから、日本から海外に進出しようとしているスタートアップが「まずは海外のスタートアップも多い福岡で挑戦してみよう」と思えるようなブランディングに繋がってくれればと思います。
住民がデジタルノマドを身近に感じられるエピソード

入江さん:滞在日数が長くなりストレスがたまっていた人を、気晴らしにスーパーに連れて行ったんです。そうしたら「日本のスーパーの魚のクオリティがすごい!なんで?」という話になって。そういった何気ない普段の様子が、実は楽しい体験なのかもしれませんね。
松崎さん:地元のスーパーは必ず盛り上がりますよね。鮮魚コーナーで並ぶお魚もそうだし、日本酒コーナーとか楽しそうですよ!「九州のお酒はどれ?」なんて話しながら選ぶのも楽しかったです。観光地巡りだけでなく、その土地に住んでいる人たちの“延長線上”の暮らしを垣間見たいというニーズはあるんだろうなあと感じます。今回参加してくれたウルグアイの方は毎朝、地元のラジオ体操に参加して「ラジオ体操のフレンズできたよ!」と嬉しそうでした。そういう何気ない交流も思い出になりますよね。
入江さん:そうですね。「デジタルノマドって、地域にとってそんなに必要なの?」っていう人もいると思うんですけど、実はもうすでに入ってきています。例えば別府にあるコワーキングスペースのGoogle書き込み、英語でのコメントが数件あります。見えていないだけで、新しい存在でなく、実はもう来てるのがデジタルノマドの人々。それをまちが主体にやってほしいですね。
質疑応答

Q みなさんの一番の課題はなんですか?
横山さん:福岡には長期滞在する施設が少ないことですね。ホテルはいっぱいありますが、1泊の単価が高いとか、1日でも部屋が埋まると連泊できないなどの問題があります。連泊できる施設がもっと必要だと考えています。
新玉さん:いろいろありますが、田舎はクレジットカードが使えないのが大きなネックです。飲食業の人にすすめても、費用の問題などがあってなかなか難しいのが現状。数社あるタクシーでも、一社しかカードが使えないんです。
松崎さん:地域の人とどう連携するかですかね。例えばコワーキングスペースの時間。海外の参加者は時差の関係で、日本の営業時間外に働きたいケースも多いんですよね。例えば、ベルリンやチリの仕事をしている参加者はコワーキングスペースを夜中の12時まで使いたい、といったニーズがあったのですが、通常の営業時間とは異なるため、調整が必要でした。これもAsideさんに協力してもらって、受け入れ体制を一緒に整えました。オペレーションの細かい課題をどうやって一緒に解決していくか、これも大切だなと感じました。
入江さん:京都にはたくさんのデジタルノマドがすでにいるんですが、地域と絡んでないので、溶け込んでいません。スタートアップに絡むなどもありません。せっかく人はいても接点がなく関係もできない、大都市でもそういう問題があります。東京・大阪・京都など、コミュニティが弱いんですよね。現在はさまざまな企業がそこに取り組んでいる最中です。韓国のように、デジタルノマドの大きなコミュニティが必要だなと思います。
Q ワーケーション施策や自身の活動を通じて、今後挑戦したいことを教えてください

新玉さん:まだ構想段階ですが。国内でドメスティックで企業向けでやってきたので、海外からのデジタルノマド(インバウンド)と、どう融合できるかを模索していきたいです。
横山さん:デジタルノマドはビジネススキルの高い方が多く、また通常のインバウンドと異なり、顔の分かる関係になれる方々です。地域でのビジネスに繋がる要素がデジタルノマドにはたくさんあると思っています。昨年度からの実績をみてみると、昨年度「Colive Fukuoka」に参加したデジタルノマド滞在者のなんと55%が今年度も参加してくれていてリピート率が非常に高いということが分かりました。ただ滞在するだけでなく、顔がわかる関係になるからまた来る。そして地域を好きになると知人にも紹介し、また人がくる。そんな循環が生まれます。そういう意味で通常のインバウンドの誘客とは異なる価値がありますよね。最近、グローバル企業がデジタルノマドの価値に気づきはじめているという感覚があり、今後の企業の動きにも期待しています。
入江さん:先ほど新玉さんがいったように、デジタルノマドについては、アウトバウンド、インバウンド両方やる必要があるんですよね。日本、韓国、台湾など東アジアのノマドホッピング文化を作りたいと思います。そこで沼ってアジアに滞在してくれたら嬉しいですね。
松崎さん:「人と地域がゆるやかにつながる」ことをテーマにしているのですが、いろんな掛け算を仕掛けていきたいですね。今回のプログラムでは「サステナブルウェルビーイング」ですが、例えば「建築」との掛け算だったり、食をテーマに日本の発酵文化をテーマにしてみたり。地域の魅力をどういう人に届けるのか?という掛け算を考えていきたいと思います。
第一線で活躍する登壇者たちの話に、熱心に耳を傾ける会場のみなさん。今後、よりデジタルノマドにまつわる動きが活発化する、そんな予感を抱いている様子でした。
参加者の感想

▼地域によって、受け入れの人数や幅が違うという話や、わたしたちの日常であるスーパーへ行くのが喜ばれるという話などを聞いて、自分たちは何かしてもてなそうとしているけど、実は「少し放っておく」というのもありなのかな?なんて思いました。
▼それぞれの方の話をコンパクトに聞けたのが良かったです。短かいけど、内容がぎっちり詰まった時間でした。それぞれの意義や課題など、伝えたいポイントがよくわかりました。
▼いろんな取り組みがあるとわかりました。大きい街、小さい町でそれぞれ違う話が聞けて良かったと思います。
最後に

大きな拍手の中トークイベントは終了し、そのまま交流会へ。さらに参加者も増え、はじめましてのあいさつや笑いが飛び交う活発な交流会となりました。
目的に合わせたオーダーメイドな体験が可能な別府ワーケーション。興味を持たれた方はぜひ一度、ワーケーションコンシェルジュにご相談ください。

