オフィスだけでなく自宅でも仕事ができるようになった昨今、仕事と休暇を両立させた“ワーケーション”が注目を集めています。
和歌山県や北海道などが有名ですが、大分県別府市でもワーケーションの受け入れに積極的に取り組んでいます。
今回、同じくワーケーションの取り組みに積極的なビッグローブ株式会社と「福利厚生型ワーケーション」の実証事業が、別府市内3つのエリア(北浜・鉄輪・明礬)で実施されました。実施するにあたり、単にワーケーションを体験するだけでなく、参加者の日々の健康状態を計測し、どのような変化があったのかを可視化した点が大きな特徴です。
古くから温泉郷としてのイメージがある別府ですが、ワーケーションの場としての別府にはどういった魅力があるのでしょうか。
第2弾 湯治リトリートキャンプ(鉄輪)
第1弾で実施された北浜に続き、第2弾は鉄輪がワーケーションの舞台となりました。
11月30日(火)〜3日(金)の4日間にわたり、仕事の効率を上げたり健康増進に繋がる入浴法を知り、温泉入浴を生活の一部にすることで、心身にどのような変化があったのかを計測しています。
今回行われた鉄輪ワーケーションのプログラムは以下の通りです。
3泊4日のプログラム
鉄輪ワーケーションの特徴は、古くから日本の養生法として行われてきた「湯治」を現代版にアレンジしている点です。
別府にある7種の泉質の組み合わせ次第でさまざまな効能が期待できる「機能温泉浴」や、自律神経を高めるといわれる「温冷交互浴」、さらには発酵食品や漢方といった「食」の視点から健康増進を図ります。
【1日目】心身状態のチェック・副交感神経を刺激しリラックス状態へ導く
オリエンテーション
今回のワーケーションが行われた大分県別府市の鉄輪は、「別府八湯(べっぷはっとう)」の一つに数えられる温泉街です。
別府駅から少し離れた鉄輪は、いたる所で湯けむりが立ち昇り、レトロな雰囲気の風情ある街並みが広がっています。周辺には「地獄巡り」と呼ばれる観光コースがあるほか、日帰り入浴が可能な温泉や、古くから続く湯治宿が立ち並んでいます。
鉄輪ワーケーションでは湯治宿の「ひろみや」を借りて、滞在中のワークや入浴方法の説明などを進めていきます。
まずは、今回のプログラムを考えた「湯治ぐらし」の菅野静さんから、ワーケーションの趣旨を説明するオリエンテーションが行われました。
「湯治リトリートキャンプ」と題された今回のワーケーションは、参加者に湯治の効果や鉄輪での生活を体験してもらう滞在型プログラム。
身体的・精神的・社会的健康を増進するための「ヘルスマネジメント」と、別府の温泉地で新たなチャレンジに導くための「イノベーション」の2つにフォーカスしています。
栄養と温泉の観点から健康を知る!
オリエンテーション後、栄養や温泉の効能について知ってもらうために2人の専門家をお呼びしました。
まずは、分子整合栄養医学「向井病院」の向井由姫さんから、身体に必要な栄養素についてご説明いただきました。
続いて、温泉利用指導者・保健師の熊谷麗さんからは、入浴の作用や温泉入浴の効果について説明がありました。
身体の調子と関わっている自律神経は、温泉の入浴方法を変えることでバランスよく整っていくそうです。
初日の健康チェック!
2人からの説明や指導を受けた上で、血圧や心拍数、唾液アミラーゼ、身体の糖化度合、不足ミネラル分析などの計測を行いました。
鉄輪ワーケーションでは温泉入浴がコンテンツの核となっており、参加者一人一人に合った入浴法や食事を提案するために、定期的に健康状態の計測を行っています。
鉄輪にある湯治宿の「みゆき屋」と「大黒屋」に宿泊
温泉入浴指導や計測が終わり、参加者たちは宿泊先の「旅館みゆき屋」と「大黒屋」にチェックイン。みゆき屋は創業80年の歴史を持ち、館内の骨董品や懐かしのレトロな空間が旅情を感じさせます。大黒屋は地獄蒸し体験ができる人気の湯治宿です。
日中の疲れをとる入浴方法
チェックイン後は、男性には九州温泉道選定委員の土谷雄一さん・女性には温泉利用指導者の熊谷麗さんからの温泉入浴指導。就寝時にぐっすり眠れるよう、副交感神経が優位になる入浴方法を教えてもらいました。
副交感神経を優位にさせる入浴方法は、ぬるめの温泉にゆっくりと肩まで浸かり、深呼吸をするだけ。
疲れを感じる場合は、温かい温泉と冷水(もしくはぬるめの湯でも良い)を浴びる「温冷交互浴」をすると、さらにリラックス状態に近づいていくそうです。
入浴後、再び数値の確認
入浴後は徒歩でひろみ屋に集合しましたが、温泉でリラックスしたためか、参加者たちの表情も柔らかくなっていました。
ここでは、入浴の前後で体調がどう変わったのかを測定していきます。
【1日目の感想】鈴木さん
ビッグローブ鈴木さん:
これまで、入浴方法を考えずにお風呂に入っていましたが、温度や入浴時間によって効果が違うことを知り、とても勉強になりました。
家でも会社でもストレスを感じることが多いので、今回のワーケーションでは同僚との親睦を深めながら、ストレスを減らしたり発散させたりする方法を知れたらなと思います。
【2日目】熱めの蒸し湯で交感神経を刺激し1日の生産性をあげる!
交感神経を刺激して仕事に挑む
2日目は、朝から「鉄輪むし湯」にて入浴指導が行われました。
鉄輪むし湯は、1276年(建治2年)に一遍上人によって創設されたとされる歴史ある蒸し湯です。蒸し湯の前には一遍上人像が安置されています。
蒸風呂の中は約8畳の石室になっており、温泉で熱せられた床の上に石菖(せきしょう)という薬草が敷き詰められています。
薬草の上に横たわり、99.5℃の単純温泉の蒸気に蒸されること約8分。高温の蒸し湯で身体を温め交感神経を刺激します。
リフレッシュしたような表情で石室から出てきた参加者。8分ほど蒸されただけですが、全身から汗が出ていました。
普段あまり汗をかくことのない参加者は、蒸し湯の発汗作用に驚いていました。
その後、41度以上の熱めの温泉入浴を短時間し、交感神経を刺激し身体を眠りから目覚めさせていきます。
朝の入浴で交感神経を優位にすることによって、この日のパフォーマンスを高めます。
コワーキングスペースでテレワーク&自由時間
ランチの後は、ひろみやから徒歩すぐの場所にあるコワーキングスペース「a side-満寿屋(アサイド マスヤ)」でテレワーク。
地元の方や旅行者、リモートワーカーが気軽に交流でき、新しいアイデアやサービスが生まれることもあるようです。
利用者は、向かいにある「すじ湯温泉」が無料で利用できるため、休憩ついでに温泉に入れることも魅力の一つ。今回のワーケーションのコンセプトとぴったりな場所でした。
湯治アプリ開発をテーマに地域の方と意見交換
鉄輪でのワーケーションでは「共創イノベーション」という時間を設け、2日目と3日目に地元のプレイヤー・学生等を交えたディスカッションを行います。
「湯治アプリ」の開発をテーマに、さまざまな視点で新たな価値を生み出すための話し合いをしました。
【2日目の感想】三浦さん
ビッグローブ三浦さん:
岩盤浴は体験したことがありますが、蒸し湯は初めてで、とても印象に残っています。蒸し湯は入り口が小さく、薬草の上に寝るという心地良さと適度な温度で、汗がどんどん出てくるのが分かりました。
朝の蒸し湯と入浴でスッキリと目が覚め、その後の仕事やディスカッションが効率良く進められたので、帰った後も朝の入浴を実践してみようと思います。
【3日目】味噌作りワークショップや地域側とのディスカッションでクリエイティビティ向上へ
手前味噌で腸内環境を整える
朝食後は、「からだこころ健幸協会」の腸美活フードアドバイザー菊地あゆみさんによる味噌作りワークショップです。
参加者それぞれのよく摂取するものや、腸内の状況について聞き取りをし、アドバイスをする菊地さん。
発酵食品である味噌は、腸内の善玉菌を増やし活性化させる日本のスーパーフード。
「味噌は朝の毒消し」とも言われているように、毎朝一杯の味噌を飲むことで身体の毒消しをしてくれるそうです。
味噌は腸内環境を整える役割を担いますが、自分の手で直接こねた「手前味噌」にすることで常在菌が入り、免疫力の向上が期待できます。
味噌玉の作り方は簡単で、出汁を混ぜた味噌(150g)を10等分にして丸めるだけ。食べる際にワカメなどの好きな具材を入れ、お湯を約150mL入れたら完成です。
冷蔵庫で1週間、冷凍庫で1ヶ月保存ができるので、忙しい毎日にもぴったりです。
部屋で黙々とテレワーク&鉄輪散策
味噌作りの後は、テレワーク。心地良い日差しが入る窓際で、黙々と仕事に臨みます。
仕事の休憩時間は、湯けむりが立ち昇る鉄輪の街を散策していました。
アプリ開発について意見を出し合う
菅野さんより湯治の歴史について説明をした後、「湯治アプリ」開発の2回目のディスカッションを行っています。
共創イノベーションでは4チームに分かれて話し合っていきますが、実際に湯治を体験しているためか、前日よりも多くの意見が出ていました。
意見を出し合った後は、ファシリテーターの深川謙蔵さんが共創イノベーションのまとめを行いました。
深川さん:
何か新しいことを始めようとしても、地元の人たちで解決しようとすると、スピードが遅くなったり解決してもレベルの低いものが出来上がったりします。これまでにも、やりたいことができずに結局終わってしまうことが何度もありました。
今回は、ビッグローブの皆さんと意見交換する中で、新しいものを生み出すには別の視点からの意見も必要だと感じました。地域が抱える問題を解決するためにも、これからは積極的に外の視点も取り入れていきたいと思います。
夕食は地獄蒸し体験
宿に戻り、夕食の準備に取り掛かります。
夕食は、鉄輪名物の「地獄蒸し料理」です。
温泉の噴気を利用して野菜や肉、魚介などの食材を蒸す料理ですが、江戸時代の頃にはすでにレシピが存在していたのだとか。
参加者たちが釜に食材を入れ、10分ほどで蒸し料理が完成しました。牡蠣と蟹の香りが漂い、食欲をそそります。
高温の湯気に蒸されることで旨味が凝縮し、鉄輪の塩化物泉に含まれるミネラル分が食材本来の味を引き立たせるそうです。
蒸した後は、蒸す前と全く表情が違っていて色鮮やかで立派な蒸し蟹になっていました。
早速、出来上がった蒸し料理を参加者全員で実食。素材が持つ旨みが引き出され、調味料をつけなくても美味しく味わえたようです。
【3日目の感想】田村さん
ビッグローブ田村さん:
今回のワーケーションでは、健康についての学びや温泉の入浴方法など、「東京でも実践できることがたくさんあるんだ」と感じました。
時間に追われていてシャワーを浴びるだけの生活が多かったため、東京に帰ったら最低でも週2回は湯船に浸かろうと思います。また、旅行に行くことも多いので、ホテルだけじゃなく湯治宿も利用したいですね。
【4日目】今後実践できる入浴方法やそれぞれの体質に合わせた「薬膳ランチ」
今回のワーケーションのまとめと帰省後も実践できる入浴指導
チェックアウト後、参加者の皆さんの心身の変化を計測。ストレス状態や末梢血管健康度に改善が見られたようです。
ランチは薬膳料理を味わう
最後のランチは「蒸士茶楼」へ。
鉄輪といえば地獄蒸し料理が有名ですが、ここでは地獄蒸しに漢方の手法を取り入れた薬膳料理を堪能できます。
食事をいただく前に、店主の前田進一郎さんからランチについての説明がありました。
前田さんは、事前に得た参加者の健康状態の情報をもとにそれぞれに必要な季節の食材や日常での過ごし方を細かく書いたものを渡していました。
贅沢な本日の海鮮一皿から始まり、季節の海鮮薬膳煮やデザートの蒸しケーキなど、丁寧に調理された品々が食卓を彩ります。
提供される料理がすべて蒸し料理ということに、前田さんのこだわりが感じられます。
初日に計測した体質や体調をもとに、ひとりひとりの状況に合わせて生薬でカスタマイズされた薬膳ランチ。食材はすべて50℃洗いと低温スチームによる調理が施され、美容と健康にもありがたいメニューでした。
ベンチでのんびりテレワーク
アサイドの前にはベンチが置かれているため、外の空気を感じながら仕事も可能です。
湯けむりに囲まれながらワークができるのも、鉄輪でのワーケーションならではでしょう。
【湯治リトリートキャンプを企画した菅野さんの感想】
菅野さん:
ワーケーション参加者の心身の状態が、鉄輪では当たり前の「湯治」によって、格段にアップするということを、本企画の体験から私も実感できました。自分の心身の状態を把握し、向上させていくことで、仕事のパフォーマンスがあがりコミュニケーションが豊かになることも、参加者の皆さんを見ていて感じることができました。
企画者としては、今後は企業側の視点だけでなく、地域側の視点も考えた上でワーケーションを行っていきたいなと思います。来られる方々によってニーズが違うため、“この町をどう紹介するのか”というところの橋渡しや編集力もより必要になるのかなと感じました。
【全体を通しての感想】
鉄輪エリアでのワーケーションを通じ、参加者たちはどのような学びや変化があったのでしょうか。感想をいくつかご紹介します。
- 「忙しくてシャワーしか浴びていませんでしたが、週に何回かは温泉に浸かろうと思いました」
- 「鉄輪ではスイッチの切り替えがあって仕事が捗りました」
- 「温泉入浴指導で教えてもらった入浴方法を、帰ってからも実践してみようと思います」
今後の日常生活でも活用できるワーケーション
新しい働き方の一つとして注目を集めているワーケーションですが、明確な形は決まっていないのが実情です。「福利厚生型別府ワーケーション」の第2弾として実施された鉄輪でのプログラムは、入浴方法や健康食など、日常生活に取り入れられるものが数多くありました。
鉄輪という湯治文化が色濃く残るエリアで、温泉が生活の一部になる“非日常”のワーケーション。参加者の皆さんは、温泉が体に与える影響や仕事に対するモチベーションアップに繋がることを体感できたのではないでしょうか。
ぜひ皆さんも、ワーケーションでご自身の身体と心を見つめ直しながら、テレワークをしてみませんか?
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